■板碑(8)
この板碑は、区内に珍しい連碑である。縦66p、横104pである。区内でも最も大きいものと思われる。
その概形は、中央部の上端が欠けて凹部となり、両端の上部が、幾分丸味をおびて突き出している。右側に少し凸凹がある。左側は、中央部が突き出しているが、左側は、あまり凸凹がない。下部は、丸味をおびて、種子の下から欠けている。下部が欠けているのがいかにも惜しく思われる。もし、欠けていなかったならば、さぞかし素晴らしい板碑であろうと思われる。
枠線は、1pの幅で、上部から、左右にあざやかに、彫られている。中央の線から、左右の枠線まで 何れも41pである。
右側の板碑の額部には、五仏が、種子をもってあらわされていると思われる。種子の下には、蓮座がある。何れも十枚の蓮辨がある。右から、一番目は、カーン「不動明王」。二番目は、種子
バク「釈迦如来」である。三番目は、マン、「文殊菩薩」と思われる。四番目は、種子の下部だけで推読が困難である。けれども、蓮座だけは、明らかに認められる。五番目も、蓮座だけ明らかで、種子は全然わからない。
五箇の蓮台の中央下に、天蓋が彫られている。天蓋は、30pの幅にまたがり、そして、約8pの高さに及んでいる。薬研彫りで美しく立派なものである。天蓋の下には、種子、バク「釈迦如来」が彫られている。薬研彫りである。種子の全長は22p、幅は、20pに及んでいる。そして、種子は蓮台の上にあり、子房らしいものが認められる。蓮座の全容が見られないのは、まことに遺憾である。
天蓋から左右に、瓔珞がある。長さ24p、幅3p程である。上端には、二等辺三角形で、底辺4p、高さ1pであり、その下に、直径0.5p程の円球が、1.5pの間隔で、三列に、十五段に彫られている。そして、十五段目は、左右に三角形、中央には、円球が彫られている。その下に、底辺が1.5p、高さ1pの二等辺三角形が彫られている。
この瓔珞には、三角形四箇と、33箇の直径0.5pの珠で構成されている。そして、この間隔、左右前後の隔たりには、整然として、少しの乱れも見られない。彫刻師の精魂の程が思われる。瓔珞は左右とも、全く同じ造りである。連碑の左側は、磨滅の結果、種子は見られない。しかし右側と対照的な所に、左端から数えて、一番目の所に、蓮辨と思われるもの五枚、二番目の所に一枚、中央の天蓋の上に一枚認められる。一基の板碑に五仏、二基合わせて十仏となし、十仏の供養を考えたものと思われる。
蓮台の中央下と思われる所に天蓋が彫られている。天蓋は右側の板碑と、大きさその他、全く同じようである。 種子、キリーク「阿弥陀如来」は、天蓋の下に見事に彫られてある。彫りは、薬研彫りである。その最長は、30p、幅、20p程である。涅槃点は菱形に近く、幅1.5p、高さ1.2pの大きさである。彫りは、薬研彫りで見事である。
また、瓔珞は、右側の板碑と同じように、天蓋の左右から、全く同じ形式で造られている。この板碑がもし完全な形であったなら、さぞかし、素晴らしい立派な板碑であろうと思われる。下部が欠け損じているのが何としても惜しまれる。また、十仏か、それとも、上部に、十一仏と、釈迦如来と、阿弥陀如来と併せて十三仏かも知れないとの推定もなしうる。紀年銘がわからないので何とも断定しかねることは残念である。けれども当区としては、貴重な数少ない板碑の一つであると思う。
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